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岡山地方裁判所 平成10年(ワ)787号 判決

原告

井上實

外一一八名

右原告ら訴訟代理人弁護士

秋山義信

有元実

今田俊夫

宇佐美英司

近藤幸夫

佐藤知健

鷹取司

火矢悦治

山根剛

被告

湯の郷観光開発株式会社

右代表者代表取締役

中野賀則

右被告訴訟代理人弁護士

今中利昭

浦田和栄

奥村徹

主文

一  別紙当事者目録記載の原告番号一ないし四九、五二ないし五七、五九ないし六九、七一、七二、七五ないし一一七及び一一九の各原告と被告との間において、右各原告が、被告が別紙物件目録記載一の土地において経営する湯の郷ゴルフ倶楽部の別紙会員権目録記載の各原告番号に対応する各会員権(ただし、原告脇本英児〔原告番号六九〕については同人名義の会員番号OKH―E―0091の会員権)を有することを確認する。

二  別紙当事者目録記載の原告番号五八、六九、七〇、七三、七四及び一一八の各原告と被告との間において、被告が右各原告の相続による湯の郷ゴルフ倶楽部の会員たる地位の承継を承認することを条件として、右各原告が被告が別紙物件目録一記載の土地において経営する湯の郷ゴルフ倶楽部の別紙会員権目録記載の各原告番号に対応する各会員権(ただし、原告脇本英児〔原告番号六九〕については脇本郁夫名義の会員番号OT―0064の会員権)を有することを確認する。

三  別紙当事者目録記載の原告番号五八、六九、七〇、七三、七四及び一一八の各原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  別紙当事者目録記載の原告番号(以下「原告番号」という。)一ないし四九、五二ないし一一九の各原告と被告との間において、右各原告が、被告が岡山県英田郡作東町田淵〈番地略〉において経営する湯の郷ゴルフ倶楽部(以下「本件ゴルフクラブ」という。)の別紙会員権目録記載の各原告番号に対応する各会員権を有することを確認する(原告番号五八、六九、七〇、七三、七四及び一一八の原告らについては主位的請求)。

2  (予備的請求―原告番号五八、六九、七〇、七三、七四、一一八の原告らについて)

被告は、原告番号五八、六九、七〇、七四の原告各自に対し、それぞれ五〇万円及びこれに対する平成一二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員、原告番号七三の原告に対し八〇万円及びこれに対する平成一二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員並びに原告番号一一八の原告に対し七〇万円及びこれに対する平成一二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  事案の概要

一  本件は、本件ゴルフクラブと同じ場所・同じ施設で従来ゴルフクラブを開設し(以下「旧ゴルフクラブ」という。)、経営していた千疋屋観光開発株式会社(昭和五九年一二月二五日に「岡山開発株式会社」と商号変更。以下「訴外会社」という。)のゴルフクラブ会員権(以下「旧会員権」といい、旧会員権を有する者を「旧会員」という。)を有していたと主張する原告らが、被告は、訴外会社の旧ゴルフクラブの営業を承継するとともに、旧会員に対する債務も承継したとして、被告に対し、原告らが本件ゴルフクラブのゴルフクラブ会員権を有することの確認を求め、さらに、原告らのうち、旧会員権を相続したと主張する原告らが予備的に預託金の返還を求めた事案である。

二  争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実

1  被告は、昭和六一年六月二四日、本件ゴルフクラブを営業する目的で和田忠浩(以下「和田」という。)により設立された法人であり、現在、本件ゴルフクラブを経営している。被告の設立当時、和田現夫(以下「現夫」という。)がその代表取締役に、内田孝明(「内田貴章」も同一人物。以下「内田」という。)がその取締役に就任していたが、昭和六二年一〇月二六日、現夫に代わって和田正吉(以下「正吉」という。)が被告の代表取締役に就任した。被告は、平成元年七月二〇日、和田から本件ゴルフクラブのゴルフ場である別紙物件目録記載一ないし三の土地及び建物(以下「本件土地及び建物」という。)の所有権を譲り受けた。

2  和田は、昭和五九年一二月ころ、訴外会社から本件土地及び建物の引渡しを受けるとともに、訴外会社の株式を取得し、昭和六一年七月一二日、訴外会社から本件土地及び建物の所有権を譲り受けた。和田は、旧会員権を有する者に対し、従前と同様の優先的優待的施設利用権の行使を認め、旧ゴルフクラブの退会の際の預託金の返還に応じ、名義書換料を徴収して旧ゴルフクラブ会員権の譲渡を承認していた。

3  その後、被告が本件ゴルフクラブを経営することになり、本件ゴルフクラブの理事会を新たに組織し、エチケット委員その他の役員を選任して本件ゴルフクラブを運営し、ゴルフクラブ会員を対象としたクラブ競技会を開催した。また、被告は、旧会員も含めた本件ゴルフクラブの退会者に対し、預託金の返還に応じるとともに、別途名義書換料を徴収して本件ゴルフクラブの会員権の譲渡を承認していた。

4  被告及び和田は、昭和六三年八月ころ、原告らを含む旧会員に対し、被告は、旧ゴルフクラブの経営母体である訴外会社が事実上倒産したことに伴い、訴外会社が有していた従前の権利義務を承継することなく、訴外会社とは全く独自にその施設所有者の承諾を得て、新たにゴルフクラブを設立・経営する計画を推進しているものであること、旧会員の本件ゴルフクラブの施設利用権は、法律的には本件ゴルフクラブの諸施設が被告の管理下に移行した時点で消滅したことになること、被告が旧会員のうち従前同様本件ゴルフクラブに年会費の納入を継続してきた者に限り低料金で本件ゴルフクラブの施設利用及びプレーを容認してきたのは、あくまでも恩恵的・暫定的措置に過ぎないこと、昭和六三年一二月末日をもって右暫定的措置を廃止し、以後旧会員はビジター扱いになることを内容とする通知文(甲ア五)を発送し、原告らの本件ゴルフクラブにおけるゴルフクラブ会員権を否定した。

5  被告及び和田は、旧会員に対し、昭和六三年一〇月一五日付け書面(甲ア六)を送付し、次の条件で会員権の買戻しを開始した。

(一) 預託金額(譲受人の場合は譲受金額)の二〇パーセントを即時支払うことを条件に一切の請求権を放棄する。

(二) 被告が訴外会社から預託金返還債務を引き受け、据置開始日を昭和六四年一月一日としたうえで、

(1) 五年間据置後、預託(譲受)金額の五〇パーセント

(2) 七年間据置後、預託(譲受)金額の七〇パーセント

(3) 一〇年間据置後、預託(譲受)金額の九〇パーセント

をそれぞれ支払う。

(三) 相当額(一五〇ないし二五〇万円)の追加預託金を差し入れることを条件に本件ゴルフクラブの正会員とする。

6  被告は、昭和六三年一二月ころから、会員権の買戻し(前記5(一)(二))を了承した旧会員に対し、買戻しを開始し、前記5(一)の条件に同意した約一六〇〇名の旧会員から会員証書の返還と引換えに預託(譲渡)金額の二〇パーセントを支払って会員権を消滅させた。

7  被告は、昭和六三年一二月ころから、追加預託金の差入れ(前記5(三))を了承した旧会員に対し、追加預託金の差入れと引換えに旧会員の会員証書と本件ゴルフクラブの会員証書との交換作業を開始した。被告は、平成二年二月末日ころまでに、約二五〇名の旧会員に対し、本件ゴルフクラブの会員証書を交付した。

8  本件ゴルフクラブはいわゆる預託金会員制のゴルフクラブであり、本件ゴルフクラブの会員権を有する者は、本件ゴルフクラブの経営者である被告に対し、次の権利を有する。

(一) 施設利用権

会員は、本件ゴルフクラブのゴルフコース、クラブハウス及びその他の付属施設を非会員(ビジター)と比較して、優先的かつ優待的条件で継続的に利用することができる権利を有している。

(二) 預託金返還請求権

会員は、本件ゴルフクラブに入会するにあたり預託した金員(入会金)を一定の据置期間(預託後一〇年間)満了後にその全額の返還を請求することができる権利を有している。

(三) 会員権を譲渡する権利

会員は、本件ゴルフクラブの会員権を、本件ゴルフクラブの経営者である被告の承認を受けて第三者に譲渡することができる権利を有している。

(四) その他の権利

会員は、前記(一)ないし(三)の権利のほか、月例競技会等の本件ゴルフクラブの行事への参加や公式のハンディキャップの取得等、本件ゴルフクラブの会員資格から派生する種々の便益を享受する権利を有している。

9  被告は、平成一一年一月二一日の本件ゴルフクラブ第二回口頭弁論期日において、主位的に昭和六四年一月一日を時効期間の起算点として、予備的に平成元年四月一日を同起算点として、原告らの会員権の消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  原告らは、旧会員権を有していたか(請求原因)。

(一) 本件ゴルフクラブ会員権は相続により承継取得することができるか(原告番号五八、六九、七〇、七三、七四及び一一八の各原告について)。

(原告らの主張)

(1) 主位的(請求原因)

被相続人長谷忠彦、脇本郁夫、白石数馬、石原寛、鵜飼克昌及び福田弘は、いずれも旧会員権ないし本件ゴルフクラブ会員権を有していたが、それぞれ昭和六〇年八月一二日、昭和五八年六月六日、平成三年一〇月一八日、平成八年六月一七日、平成一一年五月一三日及び平成九年一月六日に死亡し、原告番号五八、六九、七〇、七三、七四及び一一八の各原告が右各被相続人の有していた旧会員権ないし本件ゴルフクラブ会員権をそれぞれ相続により承継取得した。

ゴルフクラブには、社団性クラブのように会員相互の信頼関係を基礎とした閉鎖的なものもあれば、預託金会員制クラブのように、会員たる地位がゴルフ場施設運営主体である企業と右施設を利用する者との施設利用契約上の地位にすぎず、会員相互の人的要素は希薄なものなど、様々な性格のものがあり、預託金会員制クラブで、しかも会員権の名義書換による譲渡を認めている場合は、会員たる地位は、もはや一身専属的なものであるとはいえず、相続性は否定されない。

被告は、昭和六三年八月以降、原告らの本件ゴルフクラブ会員権を否定し始めたが、それ以前は会員権の相続による承継取得を認めていた。また、被告は、岡山地方裁判所平成元年(ワ)第一九二号外の事件(以下「別件訴訟」という。)における裁判上の和解(以下「別件裁判上の和解」という。)において、相続の開始している者についても何ら区別をすることなく、会員権を承継取得したことを前提とした和解をしているし、本件訴訟提起前の原告らに関する預託金査定の交渉の際も、会員権は相続により承継取得されることを前提としたうえで原告代理人との交渉に臨んでいたもので、禁反言の原則からしても、会員権の相続による承継取得を否定することは許されない。

(2) 予備的(請求原因)

仮に、ゴルフクラブ会員権を相続により承継取得できないとしても、旧ゴルフクラブの規約である湯の郷カントリークラブ規約五条(甲ア五七)によれば、入会金(預託金)は、会員死亡の場合、理事会の承認を得て返還を請求することができると定められており、昭和五八年八月二三日付け和解調書(大阪地方裁判所昭和五八年(ヨ)第五一九〇号)において右規約に基づく会員の権利は、和田及び和田の一人会社である被告に対する関係でも変更はない旨定められているので、右原告らは、被告に対し、預託金の返還を請求できる。

また、仮に右主張が認められないとしても、ゴルフクラブ会員権の内容は、①施設利用権、②預託金返還請求権、③会員権を譲渡する権利の三つが主要なものであり、仮に右①③は一身専属的な権利であるとしても、②は一身専属的な権利であると考えるべき理由はないので、相続の対象となり、右原告らは、被告に対し、預託金の返還を請求できる。

さらに、仮に右主張が認められないとしても、これまで被告は、会員権の相続性を認めた処理をしてきたので、禁反言の原則からしても、これを否定することは許されない。

(被告の主張)

原告番号五八、六九(脇本郁夫名義のもの)、七〇、七三、七四、一一八の各原告の主張する会員権については、当初の会員が死亡し相続が生じているところ、湯の郷カントリークラブ規約一一条によれば、会員は、死亡によって会員資格を喪失するから、会員権は相続人に承継されることはなく、右原告らは、そもそも旧会員権(被告が本件ゴルフクラブの経営を開始した後に相続が生じた者については本件ゴルフクラブの会員権)を有していない。

(二) 譲渡により旧会員権を取得した原告らは、訴外会社又は被告の有効な譲渡承認を得ているか(原告番号二六、三五、三七、三九、七〇、八三、八四、一〇七、一一二、一一四、一一六、一一八、一一九の各原告について)。

(被告の主張)

原告番号一一八の原告の所持する会員証書は、訴外会社の取締役会承認印がないので、訴外会社の譲渡承認を欠く。

原告番号二六、三五、三七、三九、七〇、一一二、一一四、一一六、一一九の各原告の主張する旧会員権の譲渡は、被告設立後に行われたものであるにもかかわらず、右各原告の会員証書には、訴外会社の承認印が押捺されているにすぎず、被告の有効な譲渡承認はない。

原告番号八四の原告の所持する会員証書は、訴外会社の代表取締役承認印しかなく、譲渡人及び譲受人の各記名捺印がいずれも欠けており、原告番号八三、一〇七の各原告の所持する会員証書は譲渡日の日付の記入がなく、有効な譲渡を前提とした譲渡承認はない。

(原告らの主張)

原告番号一一八の原告の所持する会員証書は、訴外会社の代表取締役承認印があるので、訴外会社の譲渡承認はなされている。

原告番号二六、三五、三七、三九、七〇、一一二、一一四、一一六、一一九の各原告については、①右各原告が年会費等を支払い、被告の取締役が、これに対し、湯の郷カントリークラブ支配人として領収書を発行するなど、被告が右各原告を会員として扱うような行動を取っていることからすれば、被告は、訴外会社に譲渡承認の権限を授与していたと考えられるので、有効な譲渡承認はあったし、②仮に、①が認められないとしても、被告は、湯の郷カントリークラブの名称を続用してゴルフクラブ経営にあたっていたのであるから、商法二六条一項の準用により、右各原告に対し、譲渡承認を否定できないし、③仮に、②が認められないとしても、右各原告は、被告に対し、改めて譲渡承認を求める。右各原告については、会員権の譲渡承認を拒絶すべき正当な理由はないので、被告は、右各原告に対し、譲渡承認を拒絶できない。

(三) もともと有効な旧会員権を有していない原告らがいるか(原告番号二、四ないし九、一四、一六、一九、二三、二五ないし四〇、四六、四八、五二、五四、五九ないし六一、六四、六九ないし七二、七四、七八、八〇、八三、八四、八六、八八、八九、九一、九五、九七、九八、一〇〇、一〇一、一〇五、一〇七、一一一ないし一一九の各原告について)。

(被告の主張)

原告番号五九、八四の各原告が所持する会員証書は、預託金額欄が「金六拾萬圓也」と印刷され、理事長名が当時の理事長ではない「谷岡不二男」となっていたり、理事長名義なのに代表取締役印が押印され、発行年の数字のみがゴム印で、月日の数字は印刷されているなど、不自然であり、訴外会社が発行した正規のものではなく偽造である。

原告番号九、七〇、九五、一一二の各原告の所持する会員証書は、色が他の会員証書に比して濃く、または印刷が不鮮明であり、原告番号九一の原告の所持する会員証書は、他の会員証書に比して印刷が薄いから、訴外会社が発行したものではない。

原告番号二六、三五、三七、三九、七〇、一一二、一一四、一一六、一一九の各原告の所持する会員証書は、契印の印影及び印影の位置が他の会員証書と異なっているから、訴外会社が発行したものではない。

原告番号二八、三二、三九の各原告の所持する会員証書は、会員番号の記載が他の会員証書は「―」が使用されているところを「・」が使用されているので、訴外会社が発行したものではない。

また、原告番号二、四ないし八、一四、一六、一九、二三、二五ないし四〇、五二、五九ないし六一、六四、六九(原告番号六九については脇本郁夫名義及び脇本英児名義の双方とも)ないし七二、七四、七八、八〇、八三、八四、八六(会員番号OT2―0360のみ)、八八、八九、九一、九五、九八、一〇〇、一〇一、一〇七、一一一ないし一一九の各原告の所持する会員証書に関しては、入会金の領収書がなく、原告番号四六の原告の領収書は広島ツーセブンカントリークラブ福富コース縁故予約預かり金の領収書であって本件ゴルフクラブの入会金の支払とは無関係のものであり、原告番号四八、五四、九七の各原告の入会金の領収書は他の会員の入会金の領収書と異なった用紙が使用され、かつ摘要欄が空欄となっており、原告番号五四、九七、一〇五の各原告の入会金の領収書は仮領収書であり、入会金の領収書はないと評価できるから、正規の手続により入会したとは認められない。

(原告らの主張)

「岡山開発株式会社」は旧ゴルフクラブの運営を行っていたので同会社名で発行された会員証書が偽造であるとはいえないし、谷岡不二男(以下「谷岡」という。)は、訴外会社の商号変更後の昭和六一年七月一五日に訴外会社代表取締役に就任しているので、被告主張の会員証書は不自然ではない。

領収書のない原告らについては、金銭の授受がないのに会員証書が発行されていることはありえない一方で、金銭の授受があっても領収書は発行されず、あるいは発行されていたとしても紛失などにより現存しない場合もあるので、領収書がないことのみで、会員権を否定することにはならない。

偽造の主張は争う。

2  被告は、原告らが本件ゴルフクラブ会員権を行使することを拒否することが許されるか(全原告についての請求原因)。

(一) 被告が訴外会社と別法人であることを理由に原告らのゴルフクラブ会員権を否定することは、法人格の濫用であり、法人格否認の法理により許されないか。

(原告らの主張)

(1) 被告が本件ゴルフクラブを経営するに至る経緯

訴外会社は、昭和四七年一月一六日、今川祐一(以下「今川」という。)を代表取締役として設立され、今川及び今川の親族が訴外会社の発行済株式をすべて所有していた。訴外会社は、昭和五〇年ころ、旧ゴルフクラブを開設し、これに先立ち、昭和四七年ころから旧ゴルフクラブの会員の募集を始め、最終的には原告らのうちの原始会員を含む約四五〇〇名以上の会員とゴルフクラブ会員契約を締結し、入会金(預託金)を徴収して「湯の郷カントリークラブ」という名称で旧ゴルフクラブを経営していた。

和田は、昭和五六年八月ころから訴外会社、その関連会社及び今川に対し、総額一〇数億円を融資し(以下「本件融資」という。)、本件融資の担保として訴外会社のすべての発行済株式を譲渡担保とし、本件土地及び建物に協和興業株式会社(以下「協和興業」という。)を権利者とする賃借権設定仮登記をさせた。

今川は、本件融資の利息が高利であり、その返済に窮するようになったため、昭和五八年一一月ころ、大阪地方裁判所に対し、利息制限法に基づく清算後の元本及び利息を超える債権の取立て及び直接交渉を禁止することを内容とする仮処分を申請し、昭和五九年八月二三日、今川と和田は、右仮処分事件において、債務の範囲及び弁済方法を変更する和解をした(以下「仮処分和解」という。)。仮処分和解には、訴外会社の全株式の譲渡担保の更新、今川らが弁済期限までに右変更後の債務を返済できない場合は、本件土地及び建物の占有を代物弁済として和田に引き渡すとともに、和田は、訴外会社の全発行済株式の所有権を確定的に取得し、訴外会社の経営権を譲り受けること及び訴外会社の経営権を和田が譲り受けた場合も、和田を経営者とする訴外会社は旧会員に対する権利義務を承継することを内容とする合意が含まれていた。

今川は、昭和五九年一二月ころ、右変更後の債務の返済を断念し、和田に対し、本件土地及び建物の占有を代物弁済として引き渡すとともに、和田が訴外会社の全発行済株式を確定的に取得することを承認し、和田に対し、旧ゴルフクラブの経営権を譲渡した。

和田は、仮処分和解の条項に基づき、旧ゴルフクラブの経営権を譲り受けた後も、従前と同様の方法により旧ゴルフクラブの営業を続け、旧ゴルフクラブの名称「湯の郷カントリークラブ」を続用し、訴外会社の従業員との雇用契約や訴外会社の旧ゴルフクラブの営業上生じた債権債務を承継し、旧会員に対し、従前と同様の会員資格を認め、優先的優待的施設利用権の行使を承認し、預託金の返還、会員権譲渡の承認及び名義書換料の徴収を行った。

和田は、旧ゴルフクラブの運営を左隆之(以下「左」という。)や水野健(以下「水野」という。)らに委託し、左及び水野は、和田の委託を受けて、昭和五九年一二月ころ、豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)との間で訴外会社の全株式の売買契約を締結し(形式上は、豊田商事グループの海外広告株式会社と水野が代表取締役を務める水野興業株式会社との契約)、旧会員の預託金返還債務も豊田商事が債務引受することとした。豊田商事は、同月一一日、右売買代金の内金として二二億円分の約束手形と一億円の保証小切手を水野に支払い、昭和六〇年六月まで毎月一億円の手形を決済しつづけ、昭和五九年一二月二五日、訴外会社の名称を岡山開発株式会社に変更するとともに、訴外会社の役員を今川らから豊田商事グループの関係者並びに水野及び左らの関係者に変更した。豊田商事は、昭和六〇年六月、倒産し、右売買代金の支払が不可能となったため、和田は、右売買契約を解除させて旧ゴルフクラブの経営権を豊田商事から返還させ、同年六月ころ、旧ゴルフクラブの経営権は和田に原状回復された。和田は、昭和六〇年一〇月ころ、旧会員に対し、旧会員の預託金は訴外会社(商号は既に岡山開発株式会社に変更)に償還義務があることを認めるなどした。

和田は、昭和六一年六月、訴外会社を休眠会社として放置するとともに、旧ゴルフクラブを経営させるため、被告を設立し、本件土地及び建物の所有権を和田に帰属させた。

(2) 右のとおり、和田は、遅くとも昭和六〇年一一月末までには、譲渡担保の実行により、訴外会社の一人株主となったが、会社法に定められた重要資産の譲渡手続あるいは精算手続を経ることなく、これを奇貨として、訴外会社の唯一の資産である本件土地及び建物の所有権を和田個人の名義に移転し、その後和田が実権を握る被告に所有権を移転したことから、和田が訴外会社を完全に私物化していることは明らかである。

そして、和田は、訴外会社の豊田商事への売却が頓挫したため、少なくとも昭和六〇年一〇月以降、自らが訴外会社の経営に関与し、訴外会社の経営を引き受けることを予定していたところ、岡山県警察の捜査が入ったため、とりあえず法人格としては訴外会社のまま経営を進めることとしたが、その後、昭和六一年六月に被告を設立し、旧ゴルフクラブの経営を被告に委託したのであり、訴外会社から被告への営業譲渡がどういう形で行われたかは明かではないが、当時訴外会社の一人株主であり実質的経営者であった和田の意向により、法人格の違いを利用して旧会員を切り捨てる意図で、勝手に訴外会社を休眠させて、被告への譲渡が行われたと考えるのが自然であり、この点でも和田の独断がうかがえる。

したがって、訴外会社と被告は、法人格としては別々であるが、いずれも和田が完全な実権を掌握している和田の私物化法人であり、その法人格の違いを奇貨として原告らの本件ゴルフクラブに対する会員としての権利を否定することは、少なくとも原告らとの法的関係に関する限り法人格の濫用と評価されるべきである。

(被告の主張)

(1) 被告が本件ゴルフクラブを経営するに至る経緯について

訴外会社の設立等及び和田の訴外会社等に対する融資については不知、本件ゴルフクラブ融資の金額は否認する。

仮処分の申請及び仮処分和解の成立は認めるが、和解内容は争う。

和田が訴外会社の株式を取得したことは認めるが、譲渡担保に供していた訴外会社の株式につき担保権の実行ないし精算として株式取得に至ったものであり、和田の訴外会社の経営権取得は否認し、和田が従前と同様の方法により旧ゴルフクラブの営業を続けたことは争い、旧ゴルフクラブの人的・物的施設の承継、名称の続用、雇用契約等の承継は否認する。

豊田商事との売買契約及びその解除は不知。

訴外会社を休眠会社として放置したこと、被告が訴外会社から旧ゴルフクラブの営業を承継したことは争う。

(2) 原告らの権利濫用の主張は争う。

(二) 被告が原告らの本件ゴルフクラブ会員権を否定することは、権利濫用として許されないか。

(原告らの主張)

特定の物につき物権変動があった場合に、その物が物権と債権の両方の目的となっている場合は、物権が優先するのが原則であるが、物権を取得した者に右原則による優先的地位を認めるに足りるだけの正当な利益がない場合、物権取得者が債権を否定して物権の権利行使をすることは権利の濫用として否定されるべきである。

本件においては、本件土地及び建物の所有権が訴外会社から、和田、被告へと順次移転されているが、①本件土地及び建物の所有権が訴外会社にあり、和田が訴外会社の一人株主兼実質的所有者であったとき、訴外会社としては旧会員の地位を承認していたが、本件土地及び建物を和田の個人名義とし、その後被告名義とした時点で、和田は旧会員権を否定する行動に出たのであり、訴外会社を通じての和田の態度と被告を通じての和田の態度は矛盾しているので、被告が原告らの本件ゴルフクラブの会員たる地位を被告に対抗できないとすることは信義則に反し、②和田は、自らが訴外会社の一人株主兼実質的経営者であることを奇貨として、旧会員すなわち訴外会社に対する債権者が存在しているにもかかわらず、勝手に本件土地及び建物の所有名義を変更し、最終的に和田が実権を握る被告に移転しており、このような被告の権利取得の方法は極めて不誠実であり、被告及び和田と本件ゴルフクラブの会員たる地位を否定された旧会員との間には著しい利益の不均衡が生じているので、被告が旧会員の本件ゴルフクラブ会員たる地位を被告に対抗できないとすることは著しく社会正義に反し、信義にもとる。

したがって、被告が、本件土地及び建物の所有者が変更したとして、原告らの本件ゴルフクラブの会員たる地位を被告に対抗できないとして否定することは権利の濫用として認められない。

(被告の主張)

争う。

(三) 被告は、「湯の郷カントリークラブ」という名称を続用していることにより、営業承継人(商法二六条一項準用)としての義務を負うか。

(原告らの主張)

被告は、訴外会社から旧ゴルフクラブの営業譲渡を受けてこれを本件ゴルフクラブとして経営しているが、商法二六条は、商号を続用する営業譲受人は、譲渡人の営業において生じた債務についても弁済の責任を負う旨規定しているところ、ゴルフクラブの名称は商号にあたらないが、営業体としてのゴルフ場も通常ゴルフクラブ名をもって表示されていることが多く、本件のように、ゴルフ場の営業譲渡がされた場合に、従前の営業体と同一の人的・物的施設の一切を包括的に使用し、同一の経営方法により営業を続行し、その営業体を表示する名称として同一のゴルフクラブ名(湯の郷カントリークラブ)を続用した場合には、右名称は単に施設としてのゴルフ場を表示するにとどまらず、ゴルフ場の営業体を表示する名称となり、特定の事業につき特定の商人を表示する名称である商号に準じて営業の同一性を表示し、その信用の標的たる機能を営んできたということができる。

したがって、本件においては、商法二六条一項を準用し、ゴルフクラブの名称を続用した営業承継人である被告は、原告らの訴外会社に対する債権につき責任を負う。

(被告の主張)

営業譲渡は否認する。その余は争う。

(四) 被告は、原告らに対し、原告らに被告の経営するゴルフクラブの会員権があることを認めるような行動をとってきたことにより、被告は、原告らのゴルフクラブ会員権を否認することは、禁反言の原則に反し許されないか。

(原告らの主張)

被告は、本件ゴルフクラブの営業を開始した当初から、旧会員に対し、非会員であるビジターに比較して優先的優待的条件でゴルフ場施設を利用する権利のあることを承認し、旧会員らの預託金の返還に応じ、旧会員の会員権の譲渡を承認し、右譲受人から名義書換料名下に金員を徴収し続けてきたのであり、このように被告は、二年八か月にわたり、旧会員に対し、本件ゴルフクラブ会員権を有することを承認してきたのであるから、これを撤回することは禁反言の原則から許されない。

(被告の主張)

争う。

3  原告らは、ゴルフクラブ会員権を放棄するような行動をとったことにより、黙示的にゴルフクラブ会員権の放棄をしたか(抗弁)。

(被告の主張)

原告らは、被告に対し、施設利用権の行使や会費納入を行うことが容易であったにもかかわらず、原告らの主張する営業承継時である昭和六一年六月以後もこれを行わなかったし、施設利用権が消滅したとの被告の通知に対しても、何ら異議を述べなかった。したがって、社会通念上、原告らは、黙示的にゴルフクラブ会員権を放棄する意思表示をしたと解すべきである。

(原告らの主張)

原告らとしては、訴外会社の倒産から被告による本件ゴルフクラブの経営開始に至る事情を知らなかったし、被告からの通知・連絡もなかったのであるから(被告主張の通知の存在は否認する。)、誰に対して権利主張あるいは義務履行をすべきか把握できない状態にあった。また、仮に通知があったとしても、被告からの一方的な通知に対して異議を述べる義務はないし、通知があったとすれば被告が原告らを本件ゴルフクラブの会員として扱っていたことになるから、異議を述べなかったとしてもゴルフクラブ会員権を放棄したことにはならない。

4  消滅時効の成否(抗弁)

(被告の主張)

ゴルフクラブの会員としての地位は、ゴルフ場施設の優先的利用権及び預託金返還請求権などを中核とする契約上の権利の総体であり、一種の債権として消滅時効にかかるものと解すべきであり、ゴルフ場経営会社が会員の資格を否定してゴルフ場施設の利用を拒絶し、あるいは会員によるゴルフ場施設の利用を外形上不可能な状態とし、会員も利用権を行使しない状態が続いたときは、その開始の時点からゴルフクラブ会員の地位の消滅時効が進行する。

被告は、旧会員らに対し、遅くとも昭和六四年一月一日には、暫定的措置を廃止し、以後ビジター扱いになることを通知し、非会員としての取扱いに変更することを表明し、フロントにおいて正規会員の会員名簿を備え付け、正規会員以外の者が会員料金でプレーすることがないよう徹底し、こうして旧会員らの会員資格を否定してゴルフ場施設の利用を拒絶し、旧会員らによるゴルフ場施設の利用を不可能な状態とした。

また、被告は、遅くとも平成元年四月一日までには、フロントにおいて正規会員の会員名簿を備え付け、正規会員以外の者が会員料金でプレーすることがないよう徹底し、現に平成元年四月一日以降は旧会員がプレーしたことはなかった。

したがって、主位的には昭和六四年一月一日から、予備的には平成元年四月一日から、五年間原告らがゴルフクラブ会員権を行使しなかったことにより、原告らのゴルフクラブ会員権は時効により消滅した。

(原告らの主張)

ゴルフクラブの施設利用権の時効消滅は問題になりうるとしても、会員権自体は時効消滅するものではない。

施設利用権が消滅時効にかかることを前提としても、時効の進行開始は争う。

被告主張の事実は、旧会員らの会員資格を否定してゴルフ場施設の利用を拒絶し、その利用を不可能にすることにはあたらない。昭和六三年一〇月一五日付け文書による通知は、それまでの旧会員の施設利用を救済措置として承認してきたことを前提としているが、被告は本来旧会員に対する権利義務も承継しており救済措置を提案できる立場にないので、右通知は旧会員の法的無知を利用した欺罔・一種の脅し文句であって、施設利用の拒絶という消滅時効の起算点として評価することはできないし、被告は、昭和六三年一二月末日をもって旧会員らの本件ゴルフクラブの施設利用を打ち切るといいながら、それに対応する措置をとるどころか、昭和六三年一一月一五日付け文書において、右期限を一年猶予する旨の案内を送付しているから、消滅時効は進行しない。

5  時効完成後の債務の承認及び時効援用の信義則違反の有無(右4の抗弁に対する再抗弁)

(原告らの主張)

被告は、原告らのゴルフクラブ会員たる地位を認めたうえで本件訴訟前に和解交渉(平成八年六月二四日に別件における訴訟上の和解の成立後、本件の原告らを中心とする旧会員について行ってきたもの。以下「本件和解交渉」という。)に臨んでいたのであり、被告らの右行為は時効完成後の債務の承認にあたる。具体的には、本件和解交渉に先立ち、別件訴訟における被告代理人の曽我乙彦弁護士(以下「曽我弁護士」という。)から具体的な和解条件が提示されていたところ、別件訴訟上の和解成立後、原告ら代理人は被告取締役千々和護人(以下「千々和」という。)からの要請を受けて旧会員らの原告ら代理人に対する委任の締切日を平成八年一〇月末日とし、原被告双方において旧会員の旧ゴルフクラブの会員権資格の確認作業を行っていたものであり、別件における訴訟上の和解成立時の平成八年六月二四日から、被告から原告ら代理人に本件和解交渉における和解金の支払期限を平成一〇年一一月末日とされたい旨の要請書が送付される平成九年一一月に至るまで、被告は原告らの本件ゴルフクラブの会員権資格につき疑義を呈したことはなかったので、右各行為又は右行為全体が時効完成後の債務の承認にあたる。

被告は、原告らについても和解による解決を希望したのであるから、資金繰りがつかなかったからといって、それまで原告らの会員資格を前提として本件和解交渉に臨んでいた態度を翻して被告において消滅時効を主張することは、禁反言ないし信義則に反し許されない。

(被告の主張)

原告らは、本件和解交渉があったことをもって債務の承認にあたると主張するが、本件和解交渉は、原告らの本件ゴルフクラブにおける会員権資格を認めることを内容とするものではないし、預託金の返還についても、和解の成立を前提として提示した条件にすぎず、債務の存在自体を自認したことにはならない。また、本件和解交渉で被告側の代表者又は代理人として行動していた千々和には被告の代表権または代理権はないから、仮に千々和が原告らの会員権を承認していたとしても、被告が承認したことにはならないし、仮に本件和解交渉が承認にあたるとしても、本件和解交渉は旧会員についてはすべて代理人を通じて行われていたものであるところ、平成八年六月二四日の時点では、原告ら(同日より後に相続が生じた者については原告らの各被相続人、以下同じ。)全員が本件和解交渉における旧会員側の代理人に委任していたわけではないので、これらの者に対しては承認があったとはいえないし、原告ら全員につき本件和解交渉における代理人への委任があったのは同年一〇月二六日以降であるところ、同日以降の被告側の行為としては金額査定の書類の交付しかないが、これは到底債務の承認とはいえない。

第三  争点に対する判断

一  前記争いのない事実及び当裁判所に顕著な事実、証拠(甲ア一ないし一六、二〇ないし五四、五七、甲イ一ないし四一、四三ないし四九〔いずれも枝番を含む。〕、証人香山光昭、証人今田俊夫、被告代表者)並びに弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められる。

1  訴外会社は、昭和四七年五月一六日、「千疋屋観光開発株式会社」という商号で、本店所在地を岡山市、代表取締役を今川、目的をゴルフ場の経営等として設立され、昭和四七年ころから旧ゴルフクラブの会員募集を開始し、昭和四九年一〇月一〇日、別紙物件目録記載二の建物を、昭和五〇年六月一〇日、同目録記載三の建物をそれぞれ本件土地上に旧ゴルフクラブのクラブハウスとして新築し、同年四月ころから本件土地及び建物において旧ゴルフクラブを経営していた。なお、訴外会社は、昭和五一年七月二一日付けで、旧ゴルフクラブの敷地である本件土地の所有権を取得している。

旧ゴルフクラブは、いわゆる預託金会員制のゴルフクラブで、それ自体独立して権利義務の主体となるべき社団の実体を有しておらず、訴外会社が旧ゴルフクラブを経営し、旧ゴルフクラブのゴルフ場施設の管理運営を旧ゴルフクラブの理事会に委託していた。旧会員は、訴外会社の定めた入会金などを訴外会社に預託して旧ゴルフクラブの会員権を取得し、訴外会社から会員証書、会員カードの発行を受けた。

旧会員権につき定められた「湯の郷カントリークラブ規約」(甲ア五七)の主な内容は次のとおりである。

(一) 正会員には、記名本人を会員とする個人会員と二名以上の団体で加入した法人又は団体名を使う者を会員とする法人会員があり、会員は別途に定められた低料金でコース及び訴外会社が経営する諸施設を優先利用する権利があり、会員外の外来プレーヤーをビジターとして同伴または紹介することができる。

(二) 入会金は、訴外会社が預かって一〇年間据え置き、その後は、①退会、②死亡、③その他理事会において必要と認めたときに、理事会の承認を得てその返還を請求することができる。

(三) 入会金は、別途定められた名義書換料を訴外会社に対し支払い、理事会の承認を得て譲渡することができる。

(四) 退会、失格、除名、死亡の場合は会員の資格を喪失する。また、入会金の返還、譲渡の場合も会員権は消滅する。

なお、個人会員には、個人正会員と個人平日会員があるが、個人平日会員は、日曜祝日のゴルフコース利用については一部制限があるものの、土曜を含む週日については、個人正会員と同様の権利内容を有し、その他会員権の譲渡権、預託金返還請求権、その他の会員としての権利の内容も同様であった。

旧ゴルフクラブは、同クラブを表示するものとして、上部に小さな字で「OKAYAMA」と記載され、中央部分に黒地に白抜きの筆記体文字でデザインされた「Yunogo」と記載され、下部に中央部に続く黒地に白抜きの小さな文字で「COUNTRY CLUB」と記載されたマーク(以下「本件マーク」という。)を使用していた。

訴外会社は、旧会員が死亡した場合、その相続人からの請求により、旧会員権が譲渡された場合の名義変更の手続に準じて、当該相続人への名義変更手続を行っていた。

2  たつみ興業株式会社(のちに「株式会社タツミ」と商号変更、以下「タツミ」という。)は、本店所在地が大阪市南区長堀橋〈番地略〉であり、金融業、飲食業の経営等を目的として和田により設立された会社であり、昭和四二年九月五日から昭和五七年二月三日まで和田が代表取締役を務め、以後、昭和六二年一〇月一二日までは現夫が、その後徳原昌助(以下「徳原」という。)が代表取締役を務めているが、和田は代表取締役辞任後も取締役、会長を務めており、柴原毅(「柴原秀泰」も同一人物。以下「柴原」という。)は、昭和五九年二月一四日から昭和六三年五月一七日まで取締役をしていた。タツミの会社案内パンフレットには、関連会社として、ゴルフクラブ(赤井カントリークラブ)を経営する昭和六二年三月二七日設立の赤井リゾート株式会社(設立当時の代表取締役は和田)及び被告が紹介され、被告大阪支社の住所はタツミ本店所在地のタツミ内とする記載があった。

3  協和興業は、代表取締役である左が昭和四九年七月一〇日に設立した会社であり、当初は産業廃棄物の処理収集運搬業等を目的としていたが、昭和五七年ころからゴルフクラブ会員券取引及びゴルフ場経営関係の金融取引に関与するようになり、タツミ又は和田の金融を仲介することにより多額の手数料を得るとともに、右金融の保証を余儀なくさせられていた。

4  今川が代表取締役を務める今一興産株式会社(以下「今一興産」という。)は、昭和五六年八月ころ、協和興業の紹介により和田から約六〇〇〇万円の手形貸付による融資を受け、訴外会社、今川及び協和興業は、今一興産の和田に対する債務を保証するため、右手形に裏書をした。右の今一興産の債務は、高利のため元利金が膨らみ、昭和五八年ころには元利金は約一〇億円以上に達しており、今川は和田から担保を差し入れるように要求されるようになった。

そこで、今川は本件土地及び建物を担保として差し出すこととし、昭和五八年六月二二日、本件土地及び建物につき、根抵当権者を和田、債務者を今川、訴外会社、今一興産とする極度額一五億円の根抵当権設定契約が締結され、同日その旨の登記がなされるとともに、協和興業を権利者とする本件土地及び建物の賃貸借設定仮登記がなされた。

5  しかし、その後も和田の今川らに対する取立てが厳しかったため、今川、訴外会社及び今一興産は、昭和五八年一二月一六日、和田を相手方として利息制限法(当時)に基づく支払利息の元本充当による精算後の元本及び利息を超える債権の取立て及び直接交渉の禁止を求める仮処分を大阪地方裁判所に申し立て(大阪地方裁判所昭和五八年(ヨ)第五一九〇号)、昭和五九年八月二三日、今川、訴外会社、今一興産、和田及び協和興業外一名との間で次の要旨の仮処分和解が成立した。

(一) 今川、訴外会社、今一興産及び協和興業外一名は、和田に対し、合計二三億六九二六万円の債務があることを認める。

(二) 右今川らは、和田の右今川らに対する債権を担保するため、訴外会社の全株式ほかにつき、その株券が和田に交付されており、和田を権利者とする譲渡担保が設定されていることを確認する。

(三) 訴外会社外一名は、和田に対し、(一)の債務のうち一四億五〇〇〇万円及び追加弁済金の支払義務のあることを認め、和田は右訴外会社らのその余の債務を免除する。

(四) (三)の一四億五〇〇〇万円の弁済期を昭和六〇年六月三〇日とする。

(五) 訴外会社は、本件土地及び建物等の換価処分を速やかに行い、訴外会社の換価手取額から五億円を控除した残額の二分の一を追加弁済金として和田に支払う。

(六) 訴外会社らが(四)の弁済期までに(三)の債務を支払うことができなかった場合、訴外会社は、和田からの意思表示を条件として、本件土地及び建物の占有を和田に引き渡す。

(七) 和田は、訴外会社に対し意思表示をすることにより、訴外会社の株式を確定的に取得するものとし、訴外会社は、直ちに和田を株主とする名義変更手続を行う。

仮処分和解の和解条項において、右(七)の記載に続けて、なお書きとして、訴外会社が経営するゴルフ場の会員の同社に対する権利義務には何らの変化のないことはもちろんであると記載されていた。

訴外会社の株式は、今川及び今川の一族が所有していたが、和田は、仮処分和解当時、訴外会社の全株式(二万株)の株券を今川らから預かり保管していた。

6  今川は、仮処分和解後、本件土地及び建物等を売却して和田に対する前記債務を弁済しようと努力したが、昭和五九年一二月ころ、売却を断念し、仮処分和解に基づく代物弁済として、本件土地及び建物を和田に引き渡すとともに、訴外会社の全株式を和田が確定的に取得することを承認し、旧ゴルフクラブの経営権を和田に譲渡した。

7  豊田商事は、昭和五九年ころからゴルフ場の買収事業を行っていたところ、昭和五九年八月ころ、ゴルフ場売買を業とする水野興業株式会社(以下「水野興業」という。)の代表取締役水野は、協和興業の左から、今川が和田に対する債務弁済のため旧ゴルフクラブを売却したがっているとして、売却先の紹介を依頼され、水野が豊田商事の永野会長に買収の意向を打診したところ、豊田商事グループが旧ゴルフクラブを買収するということで話を進めることとなった。

豊田商事と訴外会社間で、昭和五九年一二月五日、旧ゴルフクラブの売買契約が成立する予定であったが、今川が訴外会社を直接豊田商事に売却することに難色を示したため、この日は契約に至らず、同月一〇日、訴外会社が訴外会社の全株式をいったん水野興業に売却し、それを豊田商事の関連会社である海外広告株式会社(以下「海外広告」という。)に売却するという形式で契約することとなった。なお、契約内容は、すべての債権債務を承継する経営権譲渡を訴外会社の全株式譲渡という形式で行うこととし、代金四三億三一〇〇万円の支払方法は、契約成立時に内金一億円を支払い、残金四二億三一〇〇万円は昭和六〇年一月から昭和六四年六月まで毎月末日限り一億円ずつ(ただし最終回は一億三一〇〇万円)分割して支払い、海外広告は右分割金の支払を担保するために、各支払期日を満期、各分割金額を額面額とする約束手形を振り出し、関連会社である株式会社豊田ゴルフクラブ(以下「豊田ゴルフ」という。)及び鹿島商事株式会社が裏書し、右代金完済時に和田の根抵当権設定登記及び協和興業の賃借権設定仮登記を抹消することとし、海外広告が分割金の支払を一回でも懈怠した場合は、当然に右契約は解除され、水野興業と海外広告は原状回復を行うというものであった。

8  昭和五九年一二月一一日、今川は訴外会社の代表取締役を辞任し、豊田商事グループの道添憲男(以下「道添」という。)が代表取締役に就任した。

その後、豊田商事側は、訴外会社の債務が水野興業から聞いていた額より多いことが判明し、訴外会社の債務につき豊田商事側と銀行との間の話し合いができていないことから、銀行から強制執行を受けることをおそれたため、永野会長の指示により社名変更及びゴルフ場諸施設の所有権を移転することとなり、昭和五九年一二月二五日、訴外会社は、その商号を「岡山開発株式会社」と変更し(登記は昭和六〇年一月八日)、同月二七日、本店所在地を名古屋市に移転し、昭和六〇年一月二〇日、別紙物件目録記載二の建物(以下「本件クラブハウス」という。)につき豊田商事関連会社である株式会社ワールドゴルフディベロプメント(以下「ワールドゴルフ」という。)に所有権移転登記をし、豊田ゴルフがこれに賃借権を設定して、豊田ゴルフの岡山湯の郷コースとして使用していた。

9  しかし、昭和六〇年になってから豊田商事の詐欺的商法が社会問題となりはじめ、豊田商事グループの債務返済も困難となり、同年六月一八日、永野会長が殺されたため、水野から前記ゴルフクラブ売買契約の白紙撤回を迫られ、同月二一日、水野興業の事務所に水野、左、豊田ゴルフ代表取締役藪内博らが集まり、水野興業と海外広告間の前記ゴルフクラブ売買契約の解除を合意し、本件クラブハウスについてのワールドゴルフへの所有権移転登記の抹消について話合いが持たれ、水野興業は、ワールドゴルフから本件土地及び建物の登記済権利証及び抹消登記手続のための書類一式を、同月二六日、海外広告から訴外会社の実印を、豊田ゴルフから本件クラブハウスについての賃借権設定登記済権利証及び抹消登記手続のための書類一式をそれぞれ受領した。

昭和六〇年七月九日、右話合いに基づき、本件クラブハウスにつき訴外会社への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記がされ、同月一五日、訴外会社の代表取締役が道添から水野興業の関係者である谷岡及び協和興業の関係者である楠益治(以下「楠」という。)に替わった。

そのころ、和田は、左から仮処分和解における債務の弁済期を昭和六〇年六月三〇日から同年一一月まで延期してほしい旨の要請を受け、右債務の弁済期を延期した。

10  当時、旧ゴルフクラブの理事会は事実上活動を停止しており、旧ゴルフクラブの会員であった内田を中心として、旧ゴルフクラブは自主運営されていた。

昭和六〇年一〇月ころ、谷岡は、訴外会社の代表として、旧会員に対し、①豊田商事倒産後、今川は、旧ゴルフクラブの経営について「主たる債権者」と協議の結果、その経営を「大口債権者」に委ねたこと、②債権者側は、今後の経営を引き受ける方針で準備を進めていたが、同年七月一〇日、豊田ゴルフ及び訴外会社に対する国土利用計画法違反の嫌疑により、旧ゴルフクラブの事務所が岡山県警察から家宅捜査を受けたため、法律の定めるところに従い旧ゴルフクラブの経営をすべて訴外会社に戻し、独立採算のもとで運営を行う運びとなったこと、③その経過において、債権者との協議の結果、同月一五日、訴外会社は豊田グループからの役員を全員退任させ、新たに債権者側に推薦された役員が就任したこと、④預託金償還が不可能な経営状態にあるため、通信費年額六〇〇〇円を年会費一万八〇〇〇円に切り替えること等を内容とする挨拶状(甲ア四)を送付した。

その後、内田は、旧ゴルフクラブの支配人となり、旧会員権につき名義書換を行い、名義書換料を貯めて預託金償還の源資とした。

なお、訴外会社の商号が「岡山開発株式会社」に変更された後の会員権の内容についても、「会則」(甲ア四二)によれば、入会保証金(預託金または入会金に相当するものと思われる。)の返還について、一〇年満期の五年間据置となり、退会の場合に請求により返還されるとなったことを除けば、前記1の「湯の郷カントリークラブ規約」とほぼ同様の内容であり、「会則」等を記載した冊子には本件マークが記載されていた。また、昭和六一年度の湯の郷カントリークラブの協議日程表(甲ア四三)にも本件マークが記載されていた。

11  協和興業は、タツミに融資先として紹介したいくつかの会社の債務を保証させられることによりタツミに対し巨額の債務を負っていたところ、右の会社が相次いで倒産したため、昭和六一年五月一九日、東京地方裁判所に自己破産を申し立て、同年九月二六日、破産宣告を受けた。破産当時の債務は六〇〇億円以上であったが、和田に対する債務が約四〇億円、タツミに対する債務(当初は和田に対するもの)が約一七〇億円であり、主な債権者は和田とタツミであった。

12  被告は、昭和六一年六月二四日、商号を「湯の郷観光開発株式会社」とし、ゴルフ場の開発及び運営事業等を目的とし、本店所在地を岡山県英田郡作東町として、和田により設立された。設立当時の代表取締役は和田の甥で当時のタツミの代表取締役であった現夫であり、取締役には内田、当時タツミの取締役であった柴原が就任していた。

昭和六一年七月一二日、被告と訴外会社との間で、訴外会社は被告に対し、同年八月一日をもって旧ゴルフクラブの経営を引き渡すこと、その際、本件土地及び建物に付属する動産類の所有権を原状有姿のまま訴外会社から被告に移転すること及び右動産類につき未払債務がある場合は、被告は訴外会社に代わってこれを支払うことを内容とする動産所有権譲渡契約が締結された。

被告は、ゴルフ場の什器備品などは訴外会社のものをそのまま使用し、訴外会社の負っていた業者への支払等の債務、プレー料収入、従業員給料等出入金も引き継いで処理した。また、訴外会社が雇用していた従業員をそのまま継続して使用し、被告が本件ゴルフクラブを経営するようになってからも、訴外会社が経営していた当時と従業員の構成に特に変化はなかった。

旧会員は、プレー料金や各種の競技会で、本件ゴルフクラブの会員として扱われており、名義書換手続も受付で公然と行われていた。旧会員は、本件ゴルフクラブの年会費も徴収されていた。

和田は、柴原らに対して、旧会員について、従来どおりの会員料金でプレーすることを認めるよう指示していた。

他方、訴外会社は、右のとおりその経営をすべて被告に引き継ぎ、実体のない状態となっていたが、解散等の精算手続がとられることはなく、商業登記簿上は存続したまま放置されていた。

13  本件土地及び建物は、ゴルフ場施設として従来のまま被告により使用されていたが、昭和六一年一二月一三日、和田が訴外会社から同年七月一二日譲渡担保を原因として本件クラブハウスの所有権を取得した旨の所有権移転登記がされ、同月二六日、本件土地につき、同様の登記がされた。以降、被告が和田から本件土地及び本件クラブハウスを賃借する形式がとられたが、その使用状況には変化はなかった。

平成元年七月二七日、被告が、和田から、同月二〇日付け売買を原因とする本件土地及び本件クラブハウスの所有権を取得した旨の所有権移転登記がされ、同年四月七日、別紙物件目録記載三の建物につき同月四日付け売買を原因とする被告への所有権移転登記がされた。

本件土地及び本件クラブハウスについては、昭和五九年から昭和六一年にかけてそれぞれ七名の債権者による競売開始決定や仮差押及びその登記がされていたが、被告が交渉のうえ債務整理にあたり、一名の債権者(三井建設株式会社)の仮差押を除き、昭和六三年一一月ころから平成元年六月ころにかけて、いずれも抹消登記手続がされた。

14  昭和六一年一二月ころ、被告は「クラブニュースNo.1」(甲ア一六)を発行し、右ニュースには、被告代表者現夫名義で、本件ゴルフクラブを被告が経営することとなったこと及び旧会員の意を体し、専心努力すること、支配人(内田)名義で、旧会員が誇りをもってプレーできるゴルフ場にするよう従業員一同努力する決意をしていること並びに本件ゴルフクラブ理事長柴原名義で、柴原が本件ゴルフクラブの理事長に就任したこと及び旧会員の支援を得て立派なコースにしていくことが記載されており、被告が旧会員の債務を負わないことや旧会員を本件ゴルフクラブの会員として扱わないことの記載はなかった。また、現に、旧会員は旧ゴルフクラブにおけると同様、本件ゴルフクラブの施設を優先利用することができた。

15  昭和六二年三月三一日、現夫は被告の代表取締役を退任し、柴原も被告の取締役を退任し、同年一〇月二六日、和田の息子である正吉が被告の代表取締役に就任し、タツミ(当時の代表取締役は徳原)の助言のもと本件ゴルフクラブの経営が行われたが、その経営態様に変更はなかった。

昭和六二年一二月ころ、被告は「クラブニュース1987vo12」(甲ア五〇)を発行し、右ニュースには、理事長柴原の挨拶、支配人内田名義で旧会員の協力により昭和六一年に本件ゴルフクラブが連盟に加入できたこと、及び被告名義で会員料金を増額することが記載されていたが、被告が旧会員の債務を負わないことや被告が旧会員を本件ゴルフクラブの会員として扱わないことは記載されておらず、現に、旧会員は旧ゴルフクラブにおけると同様、本件ゴルフクラブの施設を優先利用することができた。

また、昭和六三年度の湯の郷カントリークラブ競技日程表(甲ア四四)には、本件マークが記載されていた。

昭和六三年四月五日、内田は、被告の取締役を解任されると共に支配人としても解雇され、被告は、同月六日、本店所在地を岡山県英田郡作東町から大阪市南区長堀橋〈番地略〉(タツミの本店所在地と同住所)に移転した後、同月二六日、本店所在地を再び大阪市から岡山県英田郡作東町へ移転した。同年五月一〇日、柴原も被告の取締役を解任され、同年八月八日、正吉も被告の代表取締役を辞任し、当時のタツミの代表取締役であった徳原昌助が被告の代表取締役に就任した。

16  昭和六三年八月ころ、被告は、旧会員に対し、訴外会社が事実上倒産し、被告はその権利義務を承継することなく独自にゴルフクラブを設立・経営すること、ゆえに同年一二月末日限り旧会員を本件ゴルフクラブの会員として扱うことをやめること、それ以前の旧会員の取扱いは暫定的措置にすぎなかったこと及び旧会員の実態調査をしたいので同封の回答書を送付してもらいたいことを伝える通知書(甲ア五)を送付した。本件ゴルフクラブ内に備え付けられていた旧会員の事務連絡用名簿も撤収された。

昭和六三年九月八日、被告は、雇用保険事務所に対し、同年八月一九日付けで事業所の名称を「湯の郷カントリークラブ」から「湯の郷ゴルフ倶楽部」に変更する旨の届け出をした。

17  被告及び和田は、旧会員に対し、昭和六三年一〇月一五日、重ねて、被告が訴外会社から旧会員の会員権にかかる権利義務を承継していない旨及び救済策として、旧会員の選択により、一定の条件の下で旧会員が本件ゴルフクラブの会員となり、あるいは預託金の一部の償還を受けることができ、その選択をするよう旧会員に求める旨の通知(甲ア六)をした。

被告は、昭和六三年一一月一五日、旧会員に対し、アンケート結果の集計が遅れていること及び旧会員のプレー権は同年一二月末日で終了するが、昭和六四年三月三一日まで同封の特別優待券で暫定的に会員料金でのプレーができることを記載した通知(甲ア七)をした。

被告は、昭和六三年一二月一〇日、旧会員に対し、アンケートの集計作業が終了したこと及び預託金の二〇パーセントを償還できることを記載した通知(甲ア八)をした。

さらに、徳原は、同年一二月ころ、本件ゴルフクラブ内で働く従業員に対し、上記通知につき説明し、それまで会員だったからといって旧会員を本件ゴルフクラブの会員として扱うことのないよう厳重に注意したうえで、本件ゴルフクラブのゴルフ場内において、旧会員のプレーは同月三一日で打ち切り、昭和六四年一月一日からはビジターとして扱う旨記載した縦五〇ないし六〇センチメートル、横約一メートルの樹脂製看板を掲示させた。昭和六四年一月一日以降、被告は、本件ゴルフクラブにプレーをするため来場した旧会員に対し、メンバーとしての扱いはできないとしてビジターとしてのプレーしか認めなかった。

被告は、平成元年二月二〇日、旧会員に対し、右の被告の提案に応じた旧会員に対する償還業務が終了したこと及び本件ゴルフクラブの会員権を特別価格で募集することを記載した通知(甲ア四九)をした。

18  本件ゴルフクラブ会員権につき湯の郷ゴルフ倶楽部会則(甲イ一五)に定められた主な内容は、入会預託金は一〇年間据置後、請求により返還すると変更されたこと、会員死亡の場合は相続人の一人が会員たる地位の承継を希望する場合は、相続人全員の請求により、会員権譲渡の場合に準じるものとするとの規定が付加されたことを除けば、「湯の郷カントリークラブ規約」とほぼ同内容であった。

同規約には、本件ゴルフクラブを表示するものとして、本件マークとは異なったマーク(上部に王冠、中央部に「YGC」の文字のある垂れ幕、左右にタツノオトシゴの図柄で下部に「YUNOGO GOLF CLUB」の文字がるもの)が印刷されていた。

19  昭和六三年から平成四年にかけて、被告に対し、本件ゴルフクラブ会員権存在確認請求訴訟が旧会員約五五〇名により大阪地方裁判所に提起され(以下「大阪訴訟」という。)、昭和六三年から平成七年に岡山地方裁判所にも旧会員約五三〇名により同様の訴訟が提起された(以下「岡山訴訟」という。)。被告は、大阪訴訟及び岡山訴訟において原告となっている旧会員に対し、メンバーとしてプレーできる特別優待券を発行していた。

平成三年一二月一日、安倉信明(以下「安倉」という。)は被告取締役に就任し(登記は同月二日)、平成四年八月一日、徳原は被告の代表取締役を辞任し(登記は同月六日)、福田稔(以下「福田」という。)が代表取締役に就任した。

20  平成六年三月三一日、大阪地方裁判所において、大阪訴訟の判決が言い渡された。その内容は、右訴訟において原告となっていた旧会員が本件ゴルフクラブにおける会員権を有することを確認するもので、これに対し、被告が控訴した。

福田は、平成六年七月二八日、被告の代表取締役を辞任し(登記は同年八月四日)、安倉も同日、被告取締役を辞任し、同年七月二八日、中野賀則(以下「中野」という。)が被告代表取締役に、千々和が被告取締役に就任し(登記は同月二九日)、同年八月一五日、小田一典(以下「小田」という。)が被告取締役に就任した。

中野は、徳原から中野賀友を通じて代表取締役となるよう依頼され、通常は被告本社所在地の大阪市にはおらず、北九州市でホテルの経営に携わっており、被告においては実質的な決裁を行わず、和田の意向を受けた実兄の中野賀友から指示を受けて代表取締役としての業務の執行にあたっていた。千々和及び小田は、中野が被告の代表取締役に選任される以前の中野の業務上の知人であった。平成六年七月以降平成一二年まで、被告において株主総会が開催されたことはなかった。

21  平成七年八月二一日、大阪訴訟の控訴審につき、大阪高等裁判所において和解が成立した(以下「大阪和解」という。)。和解内容は、旧会員である原告らのうち一部の者については、解決金(預託金の八〇パーセントの金額の金員)を受領して退会する、旧会員である残りの原告らは、継続会員(追加預託金一〇〇万円の支払が条件)あるいは終身会員(退会時の入会金の返還は三〇パーセントの金額)として本件ゴルフクラブの会員権を認めるというものだった。このとき、被告は預託金返還義務等の履行のための資金を確保するため銀行から融資を受けていた。

右和解を受けて、岡山訴訟においても、右訴訟の原被告代理人間で和解による解決の方法が協議され、また、右和解を知った大阪訴訟及び岡山訴訟の原告となっていなかった旧会員(以下「訴訟外会員」という。)から本件原告ら代理人に対して問い合わせがあり、岡山訴訟における和解の協議と並行して、本件原告ら代理人と当時の被告の代理人曽我弁護士(大阪訴訟における被告代理人でもあった。)との間で本件和解交渉が開始され、各訴訟外会員の預託金額の確定作業が行われた。

22  平成七年一〇月一一日ころ、曽我弁護士からの提案があり、岡山訴訟については大阪和解と同じ内容の和解案で、訴訟外の和解については、①預託金返還及び退会を希望する者については預託金の五〇パーセントを返還する、②継続会員については追加入会金は一五〇万円とする、③終身会員については大阪和解と同じ条件とするとの和解案で本件原告ら代理人及び曽我弁護士は合意し、右和解案は同月一七日ころ、岡山訴訟の原告ら及び訴訟外会員に対し通知された。同年一一月六日ころ、岡山訴訟における各条件に該当する原告らの人数が確定し、本件原告ら代理人から曽我弁護士に通知された。当時、訴訟外の和解に参加する予定の旧会員は二〇名であった。

本件原告ら代理人は、曽我弁護士を通じての被告との連絡がうまくいっていない様子だったので、平成八年一月一七日、千々和と面会し、同月二二日以降、交渉の相手方として千々和に直接連絡をとることとし、同年二月二一日、岡山訴訟原告ら及び訴訟外会員代理人は、同代理人事務所において、千々和と岡山訴訟の和解及び訴訟外の和解につき和解案を確認した。曽我弁護士は被告代理人を辞任し、同年四月ころ、北九州の山喜多浩朗弁護士(以下「山喜多弁護士」という。)が被告代理人を受任したので、本件原告ら代理人は和解の内容を山喜多弁護士と確認した。当時、訴訟外の和解に参加する旧会員は六〇名だった。

23  平成八年六月二四日、岡山地方裁判所において、岡山訴訟につき別件裁判上の和解が成立した。その内容は、一部の旧会員である原告らにつき、本件ゴルフクラブにおけるゴルフクラブ会員権契約を合意解除して被告に預託金返還義務を認め、その余の旧会員である原告らにつき、継続会員(一定の追加入会金を支払うことを条件とするもの。)又は終身会員として本件ゴルフクラブにおける会員権を有することを確認するものであった。このとき、被告は預託金返還義務履行等のための資金確保のために銀行から新たな借入れはしていなかった。

別件裁判上の和解の際、山喜多弁護士の他に千々和も来ており、同和解の後、千々和は、本件原告ら代理人に対し、訴訟外会員の扱いについては受付の締切を平成八年一〇月末日までにしてほしい旨要請し、本件原告ら代理人はこれを了承した。本件原告ら代理人は、訴訟外会員の預託金などの確認作業を開始し、同年七月一〇日、被告事務員利川に対し、資料を送付し、同年八月二五日、訴訟外会員に対し受付を行った。同月二九日、被告から本件原告ら代理人に宛てて、第一回目の査定一覧表が、平成九年六月五日、第二回目の査定一覧表が送付され、同月二四日、査定金額につき最終的な合意に達した。

本件原告ら代理人は、平成九年八月二五日、被告に対し、和解の各条件ごとの訴訟外会員一覧表を送付し、被告による金員の支払時期以外については和解の内容がほぼ確定していたところ、平成九年一一月、被告から、支払期日を平成一〇年一一月末日に延期して欲しい旨の要望書が送付されてきたため、資金を必要としない終身会員二六名についてのみ合意書(甲イ一六)を作成した。その後、本件原告ら代理人は、被告と連絡を取ったが支払時期につき明確にしないため、平成一〇年八月一〇日、本件訴訟を提起した。

千々和は、平成一〇年一〇月七日、被告の取締役を解任されたが(登記は同年一一月七日)、中野は現在まで被告の代表取締役を務めている。また、昭和六一年三月から本件ゴルフクラブの副支配人、平成八年一二月一日から支配人をしていた香山光昭は、平成一〇年一〇月七日、被告取締役に就任している(登記は同年一一月一七日)。

24  本件ゴルフクラブの平成一一年における来場者は約五万人であり、売上げは約六億円で経常益は赤字であった。

本件ゴルフクラブにおけるプレー希望者の受付の手順は、約二か月前から予約を開始し、当日フロントで会員・非会員別の署名簿に署名をして予約表と照合され、フロントに備え付けてある会員名・会員番号の記載された会員早見表で会員かどうかが確認されていた。

25  原告番号一ないし二五、四〇ないし四九、五二ないし五七、五九ないし六九(会員番号OKH―E―0091のみ)、七五ないし一一〇の各原告、長谷忠彦、脇本郁夫、石原寛及び鵜飼克昌は、それぞれ別紙会員権目録「入会日」欄記載の年月日に、同目録「預託金額(円)」欄記載の金員を訴外会社に支払って、同目録「会員権の種類」記載の種類の同目録「会員番号」欄記載の各会員番号の旧会員権を取得した(ただし、原告番号二、四ないし九、一四、一六、一九、二三、二五、四〇、四六、四八、五二、五四、五九ないし六一、六四、六九、七八、八〇、八三、八四、八六、八八、八九、九一、九五、九七、九八、一〇〇、一〇一、一〇五、一〇七、一一〇の各原告、脇本郁夫及び鵜飼克昌の旧会員権の有効性については後記二1のとおり。)。

原告番号二六ないし三九、七一、七二、一一一ないし一一七、一一九の各原告、白石数馬及び福田弘は、別紙会員権目録「原始会員入会(昭和)」欄記載の各年月日に、同目録「預託金額(円)」欄記載の入会金を訴外会社に支払い、同目録「会員権の種類」欄記載の種類の同目録「会員番号」欄記載の各登録番号の旧会員権を取得した同目録「原始会員名」欄記載の各原始会員から、同目録「譲渡日」欄記載の年月日にそれぞれ右の旧会員権を譲り受け、訴外会社又は被告の名義変更手続を経た(ただし、原告番号二六、三五、三七、一一二、一一四、一一六、一一九の各原告、白石数馬及び福田弘の旧会員権の有効性については後記二1のとおり。)。

長谷忠彦、脇本郁夫、白石数馬、石原寛、鵜飼克昌及び福田弘は、それぞれ順に昭和六〇年八月一二日、昭和五八年六月六日、平成三年一〇月一八日、平成八年六月一七日、平成一一年五月一三日及び平成九年一月六日に死亡し、各相続人間においてそれぞれ原告番号五八、六九、七〇、七三、七四及び一一八の各原告が右各被相続人の有していた旧会員権ないし本件ゴルフクラブ会員権を相続する旨の合意がされた。

二  次に、各争点について判断する。

1  原告らの旧会員権の有無(争点1)

(一) 相続による承継取得の可否

いわゆる預託金会員制ゴルフクラブにおける会員としての地位は、ゴルフクラブを経営する会社と会員との間で締結した入会契約に基づく契約上のものであるから、会員権の具体的権利義務の内容は、右入会契約の一部となる当該ゴルフクラブの会則により定められるが、一般には、預託金会員制ゴルフクラブの会員権は、ゴルフ場施設を利用することのできるゴルフクラブの会員たる資格(以下「会員たる資格」という。)とゴルフクラブ会員契約上の地位(理事会の入会承認を得ることを条件として会員となることのできる地位。以下「契約上の地位」という。))に分けることができ、ゴルフクラブの会員たる資格は、理事会の入会資格審査を経て付与されるもので、その資格審査は当該会員の人的要素に着目して行われるものであるから、一身専属的な性質を有し、相続の対象とはならないが、他方、契約上の地位は、ゴルフクラブ会員権が譲渡性のある財産的価値のあるものとして取引され、入会の際は一定額の入会金または預託金の支払が要求され、退会時には預託金返還請求権が生じるものとされていることからすれば、会則上、理事会の承認を条件に譲渡が認められている場合はその限りにおいて会員の固定性は放棄されているのであるから、相続の対象となるものと考えるのが相当である(最高裁平成九年三月二五日第三小法廷判決・民集五一巻三号一六〇九頁、最高裁平成九年一二月一六日第三小法廷判決・裁判集民一八六号六〇三頁参照)。

本件においては、前記認定事実によれば、旧ゴルフクラブにおける規約には、退会、失格、除名、死亡の場合は会員の資格を喪失する旨の規定があり、訴外会社の商号が岡山開発株式会社に変更後の会則においても同様の規定があることが認められるところ、右規約及び会則には、名義書換料を訴外会社に支払って理事会の承認を得て会員権を譲渡することができる旨の規定もあることが認められ、旧ゴルフクラブにおける会員権は譲渡が認められている限りにおいて会員の固定性が放棄されていたものと評価できることからすれば、前記「死亡の場合は会員の資格を喪失する」旨の規定は、理事会の資格審査を経た一身専属的な会員たる資格について規定したものであって、契約上の地位の移転を否定するものではないと解すべきであり、このように解することは、前記認定事実のとおり、訴外会社が旧会員死亡の際、請求によりその相続人への名義変更手続を行う扱いをしていたこととも合致する。

そして、本件ゴルフクラブにおいても、前記認定事実によれば、会員権の譲渡、名義書換のできる場合等についての規約の定め方及び運用は、旧ゴルフクラブにおけるものと同様であり、かつ会員死亡時には相続人につき譲渡の場合に準じる旨の規定があることが認められることからすれば、旧ゴルフクラブ又は本件ゴルフクラブにおいて会員が死亡した場合は、その死亡の時期が訴外会社、被告のいずれがゴルフクラブを経営していたときかを問わず、会員の相続人は、理事会の承認及び名義変更手続を了することを条件として会員たる資格を有することができる契約上の地位を相続により承継するものと解するべきである。

(二) 有効な譲渡承認の有無

(1) 承認印の有無

証拠(甲イ一の一一八)によると、原告番号一一八の原告の会員証書には、その裏面の代表取締役承認印欄に薄いながらも印影があり、同印影と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる他の原告の会員証書(甲イ一一五、一一七等)裏面の訴外会社代表取締役承認印欄の印影と対比すれば、その形状からして訴外会社の代表取締役印により顕出された印影と推認でき、これに対する特段の反証もないから、同印影は訴外会社代表取締役今川の意思に基づいて顕出されたものと推定され、原告番号一一八の原告の主張する旧会員権は訴外会社により譲渡を承認されたものということができる。

(2) 訴外会社の承認印

証拠(甲イ一の二六、三五、三七、三九、七〇、一一二、一一四、一一六、一一九、甲イ三六の一ないし四、甲イ三七の一ないし四、甲イ三八、甲イ三九の一及び二、甲イ四〇及び甲イ四一の一ないし四)によると、原告番号二六、三五、三七、三九、七〇、一一二、一一四、一一六、一一九の各原告は、それぞれ順に昭和六二年六月一三日、同年三月二一日、昭和六一年一二月一三日、昭和五六年一月二三日、昭和六二年一一月八日、昭和六一年六月二七日、同年一二月七日、昭和六三年二月二九日、同年一月二八日に旧会員権を譲り受けたこと、それぞれの会員証書裏面の譲渡に関する代表取締役承認印欄に訴外会社(千疋屋観光開発株式会社)代表取締役の印影があること、原告番号二六の原告は、ゴルフ会員権仲介業者スカイゴルフの仲介により、本件ゴルフクラブ事務所内で譲渡手続を行い、名義書換料を支払って「湯の郷カントリークラブ」支配人内田の記名押印のある領収書を受け取り、年会費請求書及び日程表の送付を受け、「湯の郷カントリークラブ」宛ての振込により年会費を支払っていたこと、原告番号三五の原告は、「湯の郷カントリークラブ」宛ての振込により年会費を支払い、「湯の郷カントリークラブ」の会員カードを所持し、昭和六三年二月一一日、本件ゴルフクラブの施設を利用したこと、原告番号三七の原告は、ゴルフ会員権仲介業者斉明寺利男の仲介により、本件ゴルフクラブ事務所内で譲渡手続を行い、年会費請求書、日程表の送付を受けて年会費を支払っていたこと、白石数馬は、株式会社日本ゴルフ会の仲介により購入代金の支払と引換に会員証書の交付を受けて旧会員権を譲り受け、本件ゴルフクラブの施設を利用し、その際に本件ゴルフクラブ事務所において年会費を支払っていたこと、原告番号一一四の原告は、安倉の仲介により本件ゴルフクラブ事務所内において譲渡手続を行い、その場で会員証書裏面に訴外会社の譲渡承認印を受け、年会費請求書、日程表等の送付を受け、本件ゴルフクラブの施設を利用し、その際に本件ゴルフクラブ事務所において年会費を支払っていたこと、原告番号一一九の原告は、ゴルフ会員権仲介業者スカイゴルフの仲介により旧会員権を譲り受け、名義書換料を支払って「湯の郷カントリークラブ」支配人内田の記名押印のある領収書を受け、年会費請求書及び日程表の送付を受け、「湯の郷カントリークラブ」宛ての振込により年会費を支払っていたことが認められる。

右認定事実及び前記認定事実によれば、右原告ら(相続の生じている者についてはその被相続人)が譲渡手続を行い、譲渡承認印を受けた際、そのほとんどの者が本件ゴルフクラブの事務所内において手続を行い、名義書換料を支払った結果、被告取締役に就任しており、本件ゴルフクラブの支配人として権限を与えられ、被告代表取締役現夫、正吉、理事長柴原の了解のもと、右職務に当たっていた内田名義の領収書を受領しているのであるから、右譲渡承認は、被告により権限を与えられた内田によりされたものとして、被告による譲渡承認であると解することができ、たとえ印影自体が被告のものではなく訴外会社のものであったとしても、右譲渡の時期が被告設立後間もない時であり、当時、本件ゴルフクラブの名称及びマークは旧ゴルフクラブと同じものが使用され、旧会員は本件ゴルフクラブの会員と区別されず、被告による経営の体制が確立していない時期であったことからすれば、被告がその譲渡承認印として訴外会社の印章を一時的に用いていたとしてもあながち不自然なことではないし、後記のとおり、そもそも被告は、原告らとの関係において訴外会社と別法人であることを主張することが許されないと解されることからすれば、右譲渡承認が被告による承認であることを否定することはできないので、いずれにしても、右原告らはいずれも、その会員権を譲り受けたことを被告に対抗することができる。

(3) 譲渡に関する欄の記載の欠缺

証拠(甲イ一の八三、八四、一〇七)によれば、原告番号八三、一〇七の各原告の会員証書の譲渡人記名捺印欄に原告番号八三、一〇七の各原告の記名捺印がそれぞれされていること及び原告番号八四の原告の会員証書の代表取締役承認印欄に訴外会社(岡山開発株式会社)の印影があることが認められるが、右原告らは譲渡により旧会員権を取得したものではなく、入会金を支払って会員となったもの(原始会員)であるから、右事実は右各原告の旧会員権の取得を否定するものとはならない。

(三) 会員証書の有効性

(1) 原告番号五九、八四の各原告について

証拠(甲イ一の五九、八四)によれば、原告番号五九、八四の各原告の会員証書には、預託金額欄に「金六拾萬圓也」と印刷されていること、理事長名が「谷岡不二男」となっていること、理事長名義であるにもかかわらず代表取締役印が押印されていること、発行年の数字のみがゴム印で月日の数字は印刷されていることが認められ、以上の点において、他の原告らの会員証書とは異なっている。

しかしながら、前記認定事実によれば、原告番号五九、八四の各原告が旧ゴルフクラブの会員となった昭和六〇年七月三一日当時は、訴外会社の代表取締役は谷岡であり、右各会員証書の表示上の谷岡の肩書きは理事長となっているとはいえ、客観的には、原告番号五九、八四の各原告の会員証書には当時訴外会社の代表取締役であった者の記名押印があるといえ、右記名押印部分のみならず、右各会員証書全体を、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる他の原告の会員証書(甲イ一の一、三、一〇等)の全体と対比すれば、原告番号五九及び八四の各原告の会員証書についても真正に成立したものと推定することができ、これに対する特段の反証もないし、また、昭和六〇年七月当時は、同年六月に豊田商事グループとの旧ゴルフクラブの売買契約が解除され、同年七月、本件クラブハウスにつき豊田商事関連会社から訴外会社へ登記名義が回復され、訴外会社の代表取締役が豊田グループ側の道添から水野興業の関係者である谷岡及び協和興業の関係者である楠に交代した直後の最も混乱していた時期であったことからすれば、仮処分和解のあった昭和五八年以前の旧ゴルフクラブが正常に運営されていたころに発行された会員証書と多少体裁が異なっている部分があったからといって、そのことのみをもって原告番号五九、八四の各原告の会員証書が偽造であると認めることはできず、他に右各会員証書の真正な成立や効力を疑わせる事情は認められない。

(2) 原告番号九、二六、二八、三二、三五、三七、三九、七〇、九一、九五、一一二、一一四、一一六、一一九の各原告について

原告番号二八、三二、三九の各原告の会員証書である書証(甲イ一の九、二六、二八、三二、三五、三七、三九、七〇、九一、九五、一一二、一一四、一一六、一一九)は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる他の原告の会員証書(甲イ一の一、三、一〇等)と各記名押印部分を対照すれば、いずれも真正に成立したものと推定できるところ、これらの会員証書においては、会員番号の記載が他の会員証書は「―」が使用されているところを「・」が使用されていること、原告番号九、七〇、九五、一一二の各原告の会員証書の装飾部分の印刷の色が他の会員証書に比して若干濃いように見られること、原告番号二六、三五、三七、三九、七〇、一一二、一一四、一一六、一一九の各原告の会員証書は、契印の印影の位置が上部中央から左右にずれた位置にあり、他の会員証書の契印の印影が上部中央にあるのとは異なっていることが認められるが、これらの相違点は、主として会員証書の印刷の過程で日常的に生じ得る範囲内のものとも考えられ、相違として意味を持つものとは考え難く、以上の事実のみをもって、右各原告の会員証書が偽造であると認めることはできないし、他にその効力を否定すべき事情も見当たらない。

(3) 原告番号二、四ないし八、一四、一六、一九、二三、二五ないし四〇、四六、四八、五二、五四、五九ないし六一、六四、六九ないし七二、七四、七八、八〇、八三、八四、八六、八八、八九、九一、九五、九七、九八、一〇〇、一〇一、一〇五、一〇七、一一一ないし一一九の各原告について

確かに、原告番号二、四ないし八、一四、一六、一九、二三、二五ないし四〇、五二、五九ないし六一、六四、六九(原告番号六九については脇本郁夫名義及び脇本英児名義の双方とも)、七〇、七二、七四、七八、八〇、八三、八四、八六(会員番号OT2―0360のみ)、八八、八九、九一、九五、九八、一〇〇、一〇一、一〇七、一一一ないし一一九の各原告の会員権に関しては、入会金支払の領収書はなく、証拠(甲イ二の四六、四八、五四、九七、一〇五)によれば、原告番号四六の原告の所持する領収書は広島ツーセブンカントリークラブ福富コース縁故予約預かり金の領収書となっていること、原告番号四八、五四、九七の各原告の入会金支払の領収書は他の会員の領収書と異なった用紙が使用され、かつ摘要欄が空欄となっていること及び原告番号五四、九七、一〇五の各原告の入会金支払の領収書は仮領収書であることが認められるが、そもそも、真正な会員証書が存在する以上、有効なゴルフクラブ入会契約が締結されたものと推認できるのであって、領収書がなかったからといってそれだけで正規の入会手続によるものではなかったなどとして右契約の存在を否定することはできない。また、原告番号二六ないし三九、七〇、七二、一一一ないし一一九の各原告は、承継会員であり、直接入会金を支払ったものではないから、入会金領収書を所持していなかったとしても不自然ではない。

2  原告らの本件ゴルフクラブ会員権の有無(争点2)

原告らは、被告が訴外会社と別法人であることを理由に原告らのゴルフクラブ会員権を否定することは、法人格の濫用であり、法人格否認の法理により許されないと主張するので、まずこの点について判断する。

独立の法人格を持つ会社について、その形式的独立性を貫くことが正義・公平に反すると認められる場合、すなわち法人格がまったくの形骸にすぎない場合又はそれが違法又は不法な目的のために濫用される場合には、その法人格の独立性を否認して、これと実質的に同一視できるその背後で支配する個人または別法人の責任を追及し得ると解されるところ(最高裁昭和四四年二月二七日第一小法廷判決民集二三巻二号五一一頁参照)、法人格が濫用されていると認めるには、①会社の背後にある者が会社を自己の意のままに道具として用いることのできる支配的地位にあること(支配の要件)及び②債務の履行を免れるために新会社を設立する等会社の背後にある者が違法又は不当な目的の下に会社形態を利用していること(目的の要件)が必要であり、具体的には、新旧両会社を実質的に経営する会社の背後にある者が、取引上多額の債務を負担する旧会杜について、倒産する状況にもないのにその営業を停止して休眠会社としたり解散したうえ、商号、本店の所在地、営業目的、取締役の過半数等が同一の新会社を、その資本を実質的に全額出資して設立し、旧会社の営業所、工場、什器備品、得意先、仕入先、従業員等をそのまま引き継いで、旧会社と同様の営業を続けて会社の運営を意のままに行っているような場合には、旧会社の債務を免れるために新会社を設立したものと推認することができる。

本件においては、前記認定事実によれば、和田は、昭和五九年一二月ころ、仮処分和解に基づく代物弁済として今川から本件土地及び建物の引渡しを受け、既に株券の引渡しを受けていた訴外会社の全株式を確定的に取得して旧ゴルフクラブの経営権を取得していたこと、訴外会社の設立者である今川は、昭和五九年一二月、訴外会社の代表取締役を辞任することにより、訴外会社の経営から手を引いたこと、訴外会社は昭和五九年一二月、いったん豊田商事グループに売却されたが、昭和六〇年六月、右売買契約は解除され、旧ゴルフクラブのゴルフ場施設の権利書等は協和興業及び水野興業のもとに返還され、同年七月には本件クラブハウスについての所有権移転登記が回復され、代表取締役も協和興業及び水野興業の関係者に交代したこと、水野興業は、ゴルフ場及びゴルフクラブ会員権売買において協和興業と深い関係があり、協和興業は、和田とは金融の仲介及び保証をするという関係があり、協和興業は和田に対し多額の保証債務を負っていたことが認められ、したがって、当時の訴外会社は、その全株式及び主たる不動産で営業財産であるゴルフ場施設敷地及び建物を和田に掌握され、その代表取締役も和田に対し従属せざるを得ない関係にあった協和興業関係者と協和興業及び密接な取引関係にある水野興業関係者であったことから、その実質的な経営者あるいは背後にある者は和田にほかならなかったと評価できる。

また、前記認定事実によれば、昭和六一年五月、協和興業は破産宣告を受けたこと、同年六月、和田の全額出資により、本件ゴルフクラブ経営を目的として被告が設立されたこと、設立時の代表取締役は和田の甥で当時タツミの代表取締役であった現夫であり、その後、徳原がタツミの代表取締役となり、被告の代表取締役も徳原となったこと、設立時の被告本店所在地は本件ゴルフクラブのゴルフ場所在地であったが、被告大阪支店はタツミ事務所内にあり、その後、タツミ本店所在地と同じ場所に移転したこと、タツミは和田が設立して代表取締役を務め、代表取締役を退任後も会長として実権を握っている会社であること、昭和六一年七月、訴外会社は旧ゴルフクラブの経営とともに、本件土地及び建物に付属する動産類の所有権を原状有姿のまま被告に引き渡し、右動産類について未払債務がある場合は被告がこれを引き受ける旨の合意をしたこと、その後、被告は、ゴルフ場の什器備品などは訴外会杜のものをそのまま使用し、訴外会社の負っていた業者への支払等の債務、プレー料収入、従業員給料等出入金も引き継いで処理したこと、訴外会社が雇用していた従業員をそのまま継続して使用し、被告が本件ゴルフクラブを経営するようになってからも、訴外会社が経営していた当時と従業員の構成に特に変化はなかったこと、旧会員は、プレー料金や各種の競技会で、本件ゴルフクラブの会員として扱われており、名義書換手続も受付で公然と行われていたこと、旧会員は、本件ゴルフクラブの年会費も徴収されていたこと、被告の経営する本件ゴルフクラブは、これを表示するものとして訴外会社の経営していた旧ゴルフクラブと同じコルフクラブの名称及びマークを使用していたこと、昭和六三年五月に徳原が被告の代表取締役に選任され、同年八月になって突如、旧会員の本件ゴルフクラブにおける会員権を否定し、その優先的利用権行使を同年一二月末日までと一方的に定め、本件ゴルフクラブの名称を変更し、マークも変更したことの各事実が認められ、これによれば、被告は、その全株式及び主たる不動産で営業財産であるゴルフ場施設敷地及び建物を和田に掌握され、その代表取締役も和田が実質的に経営するタツミの関係者で、本店所在地もタツミと同所であったことから、その実質的な経営者あるいは背後にある者はやはり和田であったと評価できる。また、訴外会社と被告は、その営業内容、営業目的、営業財産たるゴルフ場施設及び什器備品、従業員、ゴルフクラブの名称及びマーク並びに株主の点からすれば実質的に同一であると考えられるし(現に、前記認定のとおり、被告設立後間もない時期における譲渡承認の際、訴外会社印が使用されるなど、被告と訴外会社の混同がみられる場面もある)、一方で、訴外会社は破産せざるを得ないような状態であったわけでもないのに、解散などの手続をとられることなく休眠会社として放置されており、被告への経営の移転の原因も明らかではなく、他方で、被告は、和田が本件ゴルフ場の営業の維持により債権回収を図るために設立した会社と考えられ、昭和六三年一一月ころから平成元年六月ころにかけて、本件土地及び本件クラブハウスに設定された抵当権につき抹消登記手続をしたにもかかわらず、旧会員が主に昭和四七年ころから昭和五〇年代にかけて旧ゴルフクラブに入会していることからすれば、その一〇年後に据置期間が経過し、多額の預託金返還債務が発生することが予測され、本件ゴルフクラブの会則において預託金返還の期間が一〇年満期の五年据置と旧ゴルフクラブにおけるよりも延長されていることからしても、和田としては、被告の設立につき、旧会員に対する債務を免れたいと意図していたと考えるのが自然であって、不当な濫用の目的も認めることができる。

したがって、被告が、訴外会社とは別法人であることを根拠に、原告らの本件ゴルフクラブの会員権を否定することは、法人格の濫用として許されない。

3  原告らの本件ゴルフクラブ会員権の黙示的放棄の有無(争点3)

前記認定事実によっても、原告らが昭和六一年六月以降プレー権の行使や会費納入を一切行わなかったと認めることはできないし、仮に右行為を行っていなかったとしても、前記認定事実によれば、昭和六一年六月以降、同年一二月にクラブニュースが発行されるまで本件ゴルフクラブの経営主体が被告に変更したことを通知するものはなく(しかもクラブニュースは被告からの正式な通知ではない。)、昭和六三年八月ころに被告から各旧会員に対して送付された通知書において初めて経営主体の変更についての正式な通知がされたこと、ゆえに昭和六三年八月ころまで原告らにおいて経営主体の変更を知ることができなかったこと(むしろ昭和六〇年六月の訴外会社から各旧会員に対する通知により、旧会員らは、旧ゴルフクラブの経営主体が訴外会社に戻り安定したとの認識であったと推認できる。)及び仮に経営主体の変更を知ったとしても、昭和六三年ころまでは旧会員は本件ゴルフクラブにおいても会員として旧ゴルフクラブにおけるのと変わらない扱いがされていたことが認められ、原告としては、プレー権の行使及び会費納入を行わなかったとしても、これらにより本件ゴルフクラブ会員権を放棄する意思表示をしたと評価することはできない。

4  消滅時効の成否(争点4)

いわゆる預託金会員制ゴルフクラブにおける個人正会員たる地位は、会員は会則に従って優先的にゴルフ場施設を利用できる権利及び入会の際に預託した預託金を会則の定める据置期間後の退会の際に返還請求できる権利を有し、会則に従って年会費等を納入する義務を負担するというゴルフ場経営者との間の債権債務関係であるから、消滅時効にかかるものと解されるところ、このうち優先的施設利用権がその基本的部分を構成するものであり、ゴルフ場経営者が、ゴルフ場施設を利用可能な状態に保持し、会員がいつでも申込みを通じて個別の利用行為としてゴルフ場施設を利用することが可能である状況にあるときは、常時ゴルフ場施設を利用していなくても、これをもって会員としての権利を享受しているということができるが、ゴルフ場経営者が、「会員に対して除名等を理由にその資格を否定してゴルフ場施設の利用を拒絶し、あるいはゴルフ場施設を閉鎖して会員による利用を不可能な状態としたようなときは、その時点から会員のゴルフ場施設利用権について消滅時効が進行し、右権利が時効により消滅すると、ゴルフ会員権は、その基本的な部分を構成する権利が失われることにより、もはや包括的権利としては存続し得ないものと解するのが相当である。」(最高裁平成七年九月五日第三小法廷判決・民集四九巻八号二七三三頁参照)。

本件においては、前記認定事実によれば、旧ゴルフクラブ及び本件ゴルフクラブはいずれもいわゆる預託金会員制ゴルフクラブであること、昭和六一年七月に訴外会社が被告に対し旧ゴルフクラブの経営を引き渡したとき、同年一二月にクラブニュースが発行されたとき、昭和六二年三月に被告代表者が現夫から正吉に変更したとき及び同年一二月ころクラブニュースが発行されたときのいずれの時点においても、旧会員は、旧ゴルフクラブにおける同様、優先的に本件ゴルフクラブのゴルフ場施設を利用することができたが、被告は、訴外会社の権利義務を承継することなく独自に本件ゴルフクラブを経営することとなったため、昭和六三年一一月に旧会員の優先的施設利用権を同年一一二月末日までに限定する旨の通知をし、本件ゴルフクラブ内で働く従業員に対し、上記通知の趣旨を徹底させ、本件ゴルフクラブ施設内に上記通知と同趣旨の看板を掲示させ、昭和六四年一月一日以降は、旧会員については会員としての利用を認めずビジター扱いしていたことが認められるから、昭和六四年一月一日をもって、被告は、旧会員に対しては、本件ゴルフクラブの会員としての資格を否定して本件ゴルフクラブにおけるゴルフ場施設の利用を拒絶したと解することができ、このときから優先的施設利用権を中心とする本件ゴルフクラブの会員権について消滅時効の時効期間が起算されるというべきである。

そして、被告及び訴外会社は株式会社であり、商人であることからすれば(商法五二条)、原告ら(相続により会員権を承継した者についてはその被相続人)と訴外会社又は被告とのゴルフクラブ会員権は商法五二二条の商事債権に該当し、五年の経過によって時効により消滅するものと解すべきであり(最高裁第三小法廷平成七年九月五日判決・平成二年(オ)第一八四三号参照)、昭和六四年一月一日から五年経過後の平成六年一月一日をもって消滅時効の時効期間が満了したものと考えられる。

5  時効完成後の債務の承認及び時効援用の信義則違反の有無(争点5)

時効の中断あるいは時効完成後の債務の承認とは、債務者が、時効により権利を失う者に対し、権利が存在していることを知っていることを表示することであるところ、示談又は訴訟外の和解交渉それ自体は、当事者が相互に譲歩して紛争の解決を求めるところに主眼があり、債務者としては何らかの解決を求めているにすぎず、紛争の認識はあっても必ずしも債務の存在を認識しているわけではない。したがって、単に、示談または訴訟外の和解交渉があったこと自体をもって必ずしも債務の承認があったということはできないが、その過程において、債務者が自己が債務を負担していることを債権者又はその代理人に告げ、あるいは債務の存在を認めたうえで支払の猶予を求めていたような場合は、債務の承認にあたるというべきである。けだし、示談または訴訟外の和解交渉があったこと自体をもって債務の承認にあたり、時効の中断ないし時効援用権の喪失が認められるなら、何らかの解決を求めて話合いに応じようとする誠実な債務者は、時効の中断ないし時効援用権の喪失という不利益を被ることになるのに対し、話合いを拒否し、争いを長期化させた債務者は時効を完成させ、時効援用によりその債務を免れることができるという不合理な結果となるからである。

これを本件についてみると、前記認定事実によれば、大阪和解を受けて、平成七年八月ころから平成九年八月ころにかけて、当時の訴訟外会員であった本件原告らの代理人と被告代理人との間で訴訟外の和解に向けた交渉が協議され、遅くとも平成九年八月二五日ころ(被告は、原告らの代理人への委任時期を問題とするが平成八年一〇月末日で右和解交渉への参加受付は締め切られていることが認められ、遅くとも右時点においては当時の訴訟外会員である原告ら全員〔ただし、その後に相続が生じた原告らについてはその被相続人〕につき代理人への委任があったと認めることができる。)、和解案の具体的内容、諸条件、和解に参加する訴訟外会員の人数、預託金額等がほぼ確定していたこと、その内容は①退会を希望する会員については預託金の五〇パーセントを返還する、②継続を希望する会員については追加入会金一五〇万円を支払って会員の地位を継続する、③当人に限り終身的にプレーを希望する会員は終身プレーを認め、退会時の返還金は預託金の三〇パーセントとするというものであったこと、しかしながら右交渉は、③の終身会員を除いて和解成立には至らなかったことが認められ、右和解案の内容からすれば、右①ないし③のいずれの会員についても、有効な旧会員権ないし本件ゴルフクラブ会員権の存在を当然の前提とした上で、その権利行使の方法につきそれぞれ一定の制限を加えることを本件原告らの譲歩としたものということができ、被告においても同様の認識であることを黙示にしろ表明したからこそ、右和解交渉は、被告の預託金返還等の支払時期を確定する以外は、和解案としてほぼ確定している状態にまで至ったもので、右支払期限が定められなかったのは、被告として本件原告らの会員権の存在を争っていたからではなく、被告が、資金不足のため、支払期限の猶予を求めていたにすぎず、だからこそ、被告は、とりあえず資金を必要としない終身会員については、同会員の終身プレー権及び一定割合の預託金返還請求権を認める前記③の内容の和解を成立させ合意書を交わしたものと認められ、これらの事実によれば、被告は、本件原告らの会員権に対応する被告の債務の存在を認めた上で、各原告の希望に応じて実質的には支払の猶予にあたる譲歩を求めていたものと認めるのが相当であり、従って、被告はその債務を承認したものとして、時効の援用権を喪失したというべきである。

なお、被告は、千々和には和解交渉の権限がなく、右和解交渉は権限のない者により行われたものであると主張し、被告代表者中野は右主張に沿う供述をするが、証拠(被告代表者)によれば、中野は、いわゆるやとわれ社長として実兄等の指示を受けてその業務を行っていたものであり、具体的な代表取締役としての決裁事項の内容、取締役及び株主の構成、被告及び代表取締役の印鑑の保管等につき把握していなかったことが認められ、中野自身、その尋問において、千々和が取締役を辞任するまでは常務として社長代行的業務を行っていたこと並びに、裁判及び和解関係は別の取締役である小田が担当していたとしつつも、千々和が小田から具体的事項につき委任を受けていた可能性も否定できない旨供述しているのであって、平成七年八月ころから平成九年八月ころまでの和解交渉が継続していた間、被告の代理人としては、曽我弁護士、山喜多弁護士が順次受任し、右弁護士らが辞任し弁護士の受任がない合間においては、千々和が交渉にあたっていたが、右和解交渉の内容については行き違いなどなく一環して進められていたこと、千々和は本件訴訟提起後の平成一〇年八月一〇日に辞任するまでは被告の取締役を務めていたことなどからすれば、被告は千々和に山喜多弁護士辞任後の和解交渉の権限を与えていたものと認めるのが相当であり、被告の主張は採用できない。

三  以上の次第で、原告番号一ないし四九、五二ないし五七、五九ないし六九、七一、七二、七五ないし一一七及び一一九の各原告(ただし、原告番号六九の原告については、会員番号OKH―E―0091の会員権のみ)の請求はいずれも理由があるから、認容し、その余の原告ら(ただし、原告番号六九の原告については、会員番号OT―OO64の会員権のみ〔相続により会員権を取得した原告ら〕)の請求はいずれも被告の承認を条件とする限度で理由があるから、その限度で認容し、その余は理由がないから、棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小野木等 裁判官村田斉志 裁判官村上誠子)

別紙物件目録〈省略〉

別紙会員権目録〈省略〉

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